【MeeGo】【N9】Nokia MeeGoの濃ゆーい話 その5

NokiaのMeeGoデバイスはたった1台だけN9が出荷された事はご存知の通りです。
その中で、歴史の闇に消えた幻のデバイスたちがありました。今回は前回のソフトウェア開発に続きデバイス開発秘話とCPUなどのハードウェアを巡るNokiaの逡巡の歴史です。

それではMeeGo望郷編をどうぞ(笑)

NokiaによるHarmattanとMeeGoのデバイス開発

OSSOで働いていた社員によると、Kai Öistämö(2007年から2010年までNokiaのデバイス部門のマネージャだった。)の当初のMeeGo戦略はAppleの様に市場に年に1台のフラグシップを送り出す事だった。少なくともこの計画に於いては、同時に数多くの端末が市場に送り出される予定は無かった。代わりに1台のデバイスであるが多くの仕事を要求され、開発者は非常に挑戦的な仕事を実現しなければならなかった。

Columbus(RM-581)

Nokiaの最初のHarmattan UIデバイスはコードネームColumbusであり、2010年の前半までに出荷される予定だったが、数ヶ月後にNokiaとIntelのMeeGoの提携が発表されただけだった。

しかしながら、Harmattan UI開発の混乱と遅れが当初のColumbus出荷スケジュールを遅らせた。2009年の末に発売はキャンセルされ、コードネームDaliと呼ばれる新しいデバイスの為に、Simple Dali UIの開発が開始された。

Columbusのデザインは2010年4月に出荷されたSymbian^3ベースのN8によく似ていた。Columbus中止の後、デザインはSymbian電話に使われることが決定した。この事はMaemoチームを驚かせた。

The Nokia blogサイトはColumbusの写真を公開した。スクリーンの縁のロゴから横向きで使われるデバイスである事を示している。写真のデバイスは下側のパーツが無くなっている。

裏側にはカールツァイス光学の12Mピクセルカメラがあり、ほとんどN8と同じものの様に見える。

My Nokia Blog, Exclusive: Leaked Images of RM-581 “Columbus”Harmattan Prototype

N9-00″Dali”(RM-680)

Harmattan UI開発の遅延とColumbusの中止の後、QWERTYキーボード付きのコードネームDaliという新しいデバイスがプラットフォーム開発デバイスとして使われる様になった。Daliは2010年春までSimple Dali UI向けのプラットフォーム開発機だった。2009年末に中止されたオリジナルのHarmattan UIを置き換えた。

DaliはN9-00として市場に投入されると思われていた。しかしながら、発売はキャンセルされた、なぜなら店頭に並べるのは既に時代遅れと思われていたからである。大量のデバイス(92,000台)が既に生産されていたが、最終的にはN9と同時期にN950の名前で開発者のみに配布された。購入は出来なかったが、Nokiaは開発者に貸し出した。

Daliの外装はアルミニウムで出来ており、機能としては854×480の解像度の4インチ液晶ディスプレイを持つ。デバイス性能としては、ARM Coretex-A8プロセッサとPowerVR SGXグラフィックチップをチップ上に置くテキサス・インスツルメンツOMAP3630システムと1GBのRAMを搭載する。12Mピクセルのカメラモジュールもまた装備される。

Engadget, Nokia’s QWERTY-slidin’ N9 shows up in the wilds of China

N9-01″Lankku”(RM-696)

2011年の6月、NokiaはコードネームLankku、N9を発表した。これはMeeGo1.2 Harmattanオペレーティングシステムを採用していた。MeeGo電話としてマーケティングする代わりに、ほとんどそのデザインやSwipe UIのマーケティングとして行われた。N9の筐体は切削加工された1つのポリカーボネイトで作られていて、その上部には湾曲した耐衝撃性ガラスが取り付けられていた。Nokiaは最終的にN9のデザインをLumia Windows Phoneに使い、多くのデザイン賞を獲得した。Swipe UIの要素はNokiaの低価格帯のAshaに使われた。

LankkuはモデルネームN9-01として市場に送り出されると思われた。後にNokiaは新しいスマートフォン戦略を発表した2011年4月、QWERTYキーボード付きのコードネームDali、N9-00の中止を決定した。Lankkuは最後の開発製品として選ばれ、N9と名付けられた。

N9はDaliと同じ、1GHzで動作するARM Cortex A8プロセッサのテキサス・インストルメンツOMAP 3630 SoC、PowerVR SGX530 GPUと1GBのRAMのスペックである。背面にはカールツァイス光学とデュアルLEDフラッシュを持つ8Mピクセルのカメラが装備されている。

N9は2011年9月に出荷を開始し、数回のソフトウェアアップデートがリリースされた。最新のPR1.3は2012年の7月に利用可能となった。それから2日後、ソフトウェア開発マネージャのSotiris Makrygiannis氏に付き従う形で多くのMeeGoチームのメンバーが会社を去った。

“Lauta”(RM-742)

NokiaはQWERTYキーボード付きのコードネームLautaと呼ばれる携帯電話をLankkuの後、2011年の後半にリリースしようとしていた。電話の筐体はN9と同じポリカーボネイトで作られていたが、唯一横スライド式のQWERTYキーボードの装備が違っていた。内部的にはLautaはN9の様なTI OMAP 3630 Socを使っていた。

N900の後継機として多くから待ち望まれていたが、完成した製品として脚光を浴びることは無かった。Nokiaは大抵、発売直前のデバイスに正式なモデル名称を与えるが、Lautaの正式名称は決められたかどうかも分からない。

My Nokia Blog, Leaked Prototype: Nokia “Lauta” RM-742 –Cancelled “Immediate” N9 Successor

“Soiro”(Intel MeeGo)

Nokiaは”Soiro”というコードネームのもと、IntelのARM SocとX86アーキテクチャベースのデバイスを開発していた。このデバイスに関してはごく少ない情報しか明らかにされていないが、”Lauta”と同じデザインが採用されていた。つまりは、横スライド式のQWERTキーボードが装備されていると言う事である。

Harmattanの代わりに”Soiro”はIlmatarプラットフォームを採用していた。それはソフトウェアのインストールはRPMパッケージで行われ、Intelのハードウェアに最適化されている事を意味していた。インタビューを行ったソフトウェア開発者によると、IlmatarプラットフォームやIntelのハードウェア対応の作業は非常に挑戦的な仕事だった。

Ilmatarのユーザインターフェイスは全く違うアプローチを使うと考えられており、その目的はユーザがモダンな技術を利用し得られた情報をユーザインターフェイス自身がいかに利用出来るかを見つけるというものだった。Ilmatarの新しく独特なユーザインターフェイスはNokiaのIntel-MeeGoデバイスの売りの一つであると考えられていた。

“Senna”タブレット

Engadget, Nokia collects design patent for a tablet
インタビューを行った多くのNokia元社員によると公開されたデザイン特許の中で見られるものはSennaのコードネームが付けられたタブレットのデザインであると確認された。SennaはST-EricssonのNovaThor U8500プラットフォームをベースとした巨大なN9の様なものであり、1080pのビデオ撮影が可能な背面カメラを備えていた。SennaはHarmattanではない公式版のMeeGoを採用しており、しかしながらユーザインターフェイスとアプリはN9と同じものを採用していた。


U8500は二つのARM Cortex A9コアとARM Mali 400 GPUを内蔵しており、同じチップにHSPA+モデムも統合されていた。

2010年の後半、N9とプロトタイプのタブレットの作業がStephen Elop CEOに披露され、高い評価を得た。間もなくSennaはMeeGo戦略の中止とともに葬り去られた。

Engadget, Is this Nokia’s tablet-shaped MeeGo device?

Fonearena, Nokia MeeGo Device Based on ST Ericsson U8500 Platform

NokiaとIntelの提携

Olli-Pekka Kallasvuo era(注:当時のNokia CEO)在任中はNokiaはアメリカ以外の地域に集中すると言う戦略を取っていた。Kallasvuo era時代の末期には北米のNokiaの立ち位置は崩壊し、悲惨な状況だった。AppleのiPhoneとGoogleのAndroidはSymbianより扱い易いユーザインターフェイスを提供していたが、Nokiaはグローバルマーケット向けの製品を携帯電話事業者やアメリカ顧客に買ってもらうしか無かった。

2010年当初、北米市場はLTEネットワークとLTE対応電話によって独占されると言う事が明確になって来ていた。同時期Nokiaは将来のMeeGoに使われるハードウェアについて重要な決定を行っていた。

2008年10月、テキサス・インスツルメンツはスマートフォンのベースバンドモデムへの投資を中止すると言う発表を行い、無線通信部門の売却先を探していた。経営が苦しい状況にあり、TIは2億ドルの経費削減とOMAP4アプリケーションプロセッサの開発に集中する必要があった。

NokiaにとってMeeGoがTI OMAPの採用を終了することを意味し、それは同じ会社のアプリケーションプロセッサとベースバンドモデムのスマートフォンチップセットを購入する会社を決定しなければならないと言うことだった。Nokiaは初期のMaemoデバイス全てにTIのOMAP SoCsを採用して来た、HarmattanデバイスもまたTI OMAP 3640ベースで開発されていた。

・N770: OMAP 1710
・N800: OMAP 2420 (330 MHz)
・N810: OMAP 2420 (400 MHz)
・N900: OMAP 3430
・N950, N9 & Lauta: OMAP 3640

TIによるOMAP3ラインのSoCsの代替案としてはQualcommとIntelがあったが、Intelを選ぶ事になった。Qualcommはハードウェアの適合を提供したが、チップセットのオペレーティングシステムへの接続は低レベルのソフトウェアに留まっており、オペレーティングシステム開発には寄与しなかった、例えばHarmattanやMeeGo。この為、IntelはMeeGoの協業を一新した。

Motorola, Driving 4G: WiMAX & LTE (PDF)

あるインタビューではIntelに関する決定は災害であると説明したが、QualcommにとってはAndroidやWindows Phoneなどの他の競合するプロジェクトに比べてMeeGoの優先順位は高くなかった。Intelを選択する事は北米マーケットを無視することになる、なぜならIntelはアメリカで広く使われているCDMA-ネットワークをサポートする効率の良い計画を持っていなかった。

NokiaとIntelはまた第4世代ネットワーク技術のWiMAXの開発に大きな投資を行っていたが、LTEと並立して競合していた。これらの競合する4G技術WiMAXは、SprintがWiMAXを使った最初の4GネットワークをUSに構築した時に初めて市場に投入された。しかしながら、開発のスピードは遅く、実際のところのネットワークの伝送速度は理論値に遠く及ばなかった。

より良い両立案としては、LTEによって信頼性と実際の伝送速度を提供し、ネットワークオペレータが4Gネットワークを構築する時、技術の選択肢を与える事である。NokiaがTIのOMAP後の将来のハードウェアの選択を行った時、IntelはLTEサポートの適切なスケジュールを持っていなかった。

2年半が過ぎた今日でさえも、Intelは最新のMedfield ATOM SoCにLTEサポートの統合を提供出来ていない。しかし、年末に7160ベースバンドモデムのテストユニットを配布すると発表し、2013年にはそのチップが使用可能になるとしている。

TechCruch, Intel Confirms Medfield x86 Chips Don’t Support LTE Yet

その後、Qualcommとの交渉は再開された。計画はIntelベースのMeeGoデバイスの後、QualcommのSnapdragon Soc(System-on-a-Chip)ベースのMeeGoデバイスが造られるということだった。

Update:記事の公開後受け取った情報では、Nokiaは2011年の最初にUS市場向けに(ほとんどRM-716のようだ)QualcommのSnapdragon Soc版のN9を開発する予定だった。この事は新しい戦略を選択した結果、Windows Phoneが同じプラットフォームを使う様に設計されていることにより、Nokiaは簡単かつシンプルにオプションを提供出来る様になったからである。”Sea Ray”プロトタイプ(Lumia 800)はN9の発表後まもなく、同一のデザインで公開された。

Intelのスマートフォンプラットフォーム:MoorestownとMedfield

LTEサポートの欠如に加えて、別のMeeGo開発者はIntelが自分の持ち分のMeeGo開発の速度を緩めようとしていたと述べた。MeeGoはX86とARMアーキテクチャの両方をサポートする様に設計されていた。コードネームIlmatarと呼ばれるMeeGoに適合するIntelのATOM SoCのハードウェア最適化はまだ準備出来ていなかった。Intelはx86 SoCが負け犬として取り残されることと、オペレーティングシステムの開発に関連する事の多くが、Nokiaとの取引から取り残されることを恐れた。

2010年の春、IntelはコードネームMoorestownというスマートフォンプラットフォームを市場に投入した。45ナノメートルプロセス製造技術によるコードネームLincroftというアプリケーションプロセッサと65nmプロセスで独立したベースバンドモデムを搭載するLangwel周辺機器チップで構成されていた。Atom Z6XX チップセットファミリーのSoCはクロックスピード1.2-1.9GHzで動作し、一つのCPUコアとIntel GMA600 GPUを搭載している。
Moorestownプラットフォームはスマートフォン市場に投入される事は無く、Intelに放棄された。

2011年の早期にIntelはMedfieldプラットフォームについて言及した。32-ナノメートル幅の製造技術、全ての機能がPenwellというコードネームのSoCに統合されていた。PenwellプラットフォームはHyper-Threadingをサポートする1.2GHzのAtomプロセッサとPowerVR SGX 540 GPU、512KBのL2キャッシュ、LPDDR2メモリコントローラを搭載している。

Motorola RAZR i
2012年からLenovo K800やOrange San Diegoの様ないくつかのMedfieldベースのAndroidスマートフォンが公開されて来た。MotorolaのRAZR iは最も先進的なIntelベースのスマートフォンであり、Medfieldプラットフォームの2GHzプロセッサのAtom Z2460 SoCが使われている。

ハアハアもののQWERTYキーボード付きMeeGoデバイスや幻のタブレット。Intelのハードウェアを使った製品の情報に付いてはほとんど出回っていなかった為に興味深く読めました。
また、なぜNokiaがハードウェアプラットフォームにIntelを選び、そしてその関係を解消していったかもよく理解出来たかと思います。
MeeGoにとっては色々な意味でタイミングが悪く、Windows Phone戦略は当時とりうる戦略の中で最良のものの一つだったということでしょう。

では、次回はCEO Stephen Elop氏が登場し、彼がどんな決断をしどのように会社を導いたかが語られます。では次回”MeeGo悪のCEO編”(笑)をお楽しみに。私のやる気にも期待して下さい。

    • pekeroppa
    • 2012年 10月 21日

    楽しみです!

      • palmdra
      • 2012年 10月 21日

      pekeroppaさん

      ありがとうございます。平日はなかなか忙しいので、期待しないでお待ちください。

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