アーカイブ : 2009年 5月

【Movies】グラン・トリノ

クリント・イ-ストウッドの俳優引退作と言われているグラン・トリノを観てきました。
妻に先立たれた孤独な老人、息子共とも折り合いが悪く、中産階級の崩壊により近所は居なくなり、マイナリティが大半を占めるようになったことに苛立ちを隠せない。
そんな折り 、隣にアジアの少数民族が越してくる。勝気な姉と内気な弟、同族のギャングにそそのかされた弟は老人のガレ-ジに盗みに入ろうとする。その車こそがグラン・トリノでこれをきっかけになにかと兄弟の世話を焼くようになる。なんてのが大まかなスト-リ-です。
言われている程良い映画では無いかも知れないです。でもこれは誇り高き映画だと思います。
グラン・トリノはまだアメリカが物作りに邁進していた時代の象徴なのでしょう。まじめに物作りを行なっていれば家族が養えて、家を建て、子供に教育をしてあげて送り出すことが出来るそんな古き良き時代の象徴であるでしょう。
イ-ストウッド演じる老人の苛立ちは家族に相手をされない事やへそにピアスを着ける呆れた孫世代にだけでは無く、崩れゆく中産階級や社会道徳の崩壊への不満に他ならないと思います。
イ-ストウッドはカンフ-マスタ-よろしく、アジアの青年に仕事を覚えさせ、社会で生きる術を教えて行きます。そこには自業自得とは言え、リ-マンショックで堕ちたる今も世界のリ-ダ-たる自覚と積み重ねてきた自信が伺えます。
アジア系移民の兄弟に降り掛かる運命は過酷であり、イ-ストウッドは最後の決断をしますが、それはマカロニ・ウェスタンでもダ-ティ・ハリ-でも無い正義の行使です。
決してハッピ-エンドではないにも係らず見終った後、清ぎよしい感動が残るのはイ-ストウッドが最後まで信念に基いて行動するからでしょうね。やはりこれは誇り高い映画なのだと思います。
振り返って、我が国からこのような映画は生れるのでしょうか。近隣諸国の批判が高まる度に卑屈な態度をとるばかりの我が国では無理だろうなあと思い、ちょっと寂しい気分になったのも確かなのでした。

【Books】レッドゾーン

昨年話題になったNHKのテレビドラマの原作ハゲタカ、ハゲタカII(原題バイ・アウト)の続編になります。今回は映画の予告をご覧になった方は分かると思いますが、中国ファンドが相手になります。名付けて赤いハゲタカ、日本最大の自動車会社アカマ自動車に買収が掛かり、またもハゲタカ鷲津が登場するという訳です。背後に存在する中国国家ファンドの存在、前作で変死を遂げた鷲津の片腕アラン・ウォードの死の真相など数々の謎が折り込まれながら物語は進みます。物語の大半がアカマ自動車の防衛策に費やされて意外と鷲津自信は活躍しない感じもあります。

相変わらずこの方の書くものは読みやすくハードカバー上下巻で結構なボリュームなのですが、一気に読めてしまいます。
また前作、前々作で過去のドロドロしたものから解き放たれたからでしょうか鷲津は前に比べるとかなりとっつき易いキャラクタになってます。これもハゲタカの大衆化でしょうかね。
破綻寸前のビッグスリーの処理に関するたりが絡めて登場しますが、そのあたりはかなり物足りない。ハゲタカらしいディールの場面も殆どなく、高揚されるものが無いのが難点ですが、面白い経済エンターテイメント小説である事は間違いありません。

映画は相当ストーリーに変更が加えられる様で派遣問題など、NHKらしい優等生的な造りがされるのでしょう。レベル的には一連のTVドラマの映画化の様に2時間枠のスペシャルTVドラマといった様相で劇場に足を運ぶほどのものではないとは思いますが、この小説を読んだ後では見に行きたいなあという気持ちに駆られます。

最後にTo be continueの文字が無いのは残念ですが、サブプライム、リーマンショックに続く新たな危機が訪れればまた鷲津は戻って来ると思いますね。